Squall

  

「マスカレード?」
 跡部が差し出す封筒を受け取りながら、手塚は繰り返した。
「そう。今年のパーティーは、ちょっと趣向を変えてみようと思ってな」
「マスカレードというのは、アレだろう? 仮面やらで仮装する……」
「逆に、それ以外に何があるのか教えてもらいてえよ」
 跡部は人を小馬鹿にしたように笑った。
 こういうとき、跡部と自分との間に横たわる常識というラインの断絶を感じるのだが、要は育ってきた環境の問題なのであまり重く受け止めないようにしている。
 主催が彼ということは、規模は数百人を下らないのだろう。それにしても、
「お前の誕生日パーティーじゃないのか?」
「俺の誕生日だから、好きに出来るんじゃねえの?」
 跡部は何が疑問か分からないといったふうに首を傾げた。
 毎年の恒例行事だと言っていたし、純粋に楽しみにしているようだったので、手塚はそれ以上何も言わなかった。とんだお祭り男だな、とは思ったが。
「何を着て行けばいいんだ? さすがに学生服というわけにはいかないだろう」
「バーカ、せっかくお前を着飾る名目が出来たってのに、俺様が何も用意してないわけねえだろ」
 待ってましたとばかりに跡部が言う。
「家の奴らには伝えてあるから、身一つで来ればいい。あ、招待状は忘れんなよ。一応、受付で確認することになってるから」
「どんな衣装か聞いても?」
「それは当日になってのお楽しみってことで。って、なんだよ、その顔は」
 跡部は心外だと言いたげに眉を寄せた。どうも顔に出ていたようだ。
「お前のセンスが少し不安になっただけだ」
「失礼な奴だな。ちゃーんとお前の好みも加味して考えたっつーの。本当は、少しやり過ぎなくらいが面白いんだからな」
「そうか、助かる」
 手塚は改めて封筒に目を落とした。表には手塚の名前が跡部らしい流麗な筆跡で書かれ、裏返すと赤いシーリングワックスで封がされている。一体何枚くらい書いたのだろうか。
「当日は忙しくしてるんだろうな」
「ん? いや、どうだかな。俺も仮装するし。案外誰も気付かなかったりして」
 そう言って、跡部は意味ありげに笑った。
「さすがにホストが分からないのは不味いんじゃないか?」
「まあな。ただ、仮面をしようが、背格好とか声や雰囲気なんかで見当はつくもんだろ。王侯貴族の時代だって、名目上の無礼講であって、実際にはどこの誰だか分かっていながら、分からないふりをするってのが乙だったわけだし」
「高貴な人の考えは理解しがたいな」
「同感だ。本当に誰か分からないほうが、何倍も面白いと思わねえ?」
 跡部は手塚の反応を窺うように、そう問いかけた。
 手塚はこれをいつもの軽口と思って気にも留めなかったのだが、もう少し突っ込んで聞いておけば、何かのヒントになったかもしれない。それに気付いたのは、パーティー当日、十月四日になってのことだった。

  

 夕方、指定された時間に跡部の家に着くと、すぐに別室に案内された。
 姿見の横に掛けてある燕尾服を見て、手塚は内心ほっとした。最悪、ヴェネチアのカーニバルみたいな悪趣味な衣装を想像していたのだが、用意されていたのは黒い燕尾服の上下に白いベストとシャツ、それに白い蝶ネクタイという至極まともな正礼装一式だった。
 ちょうど着替え終えたタイミングで、ノックの音が聞こえた。
「よくお似合いですよ」
 衝立の後ろから顔を出したミカエルは、もともと細い目をさらに細めて言った。
 最後にテーブルに置かれていた銀色の仮面を手に取って、手塚ははたと動きを止めた。仮面は額から鼻先までを覆うデザインで、もちろん眼鏡と同時にはつけられないものだった。
「ご一緒にこちらでお預かりいたしましょう」
「お願いします」
 手塚は心許なく思いつつ、着てきた洋服とともに眼鏡を手渡した。
 無ければ何も見えないということはないが、数メートル先のものとなるとかなり見えづらい。この状況で跡部を見つけるのは、なかなか骨が折れそうだ。

  

 会場となる跡部の家で一番大きなホールは、既に招待客で溢れていた。一言で表すなら、上品なハロウィーンパーティーといったところだろうか。男性のほとんどが手塚が着ているような黒の燕尾服やタキシード姿だが、カラフルな色や模様のタキシードを着た者も目立つ。女性は輪を掛けて華やかで、ロングドレスを纏った姿は、まさに舞踏会の華といった艶やかさだ。その誰もが仮面で素顔を隠している。中には、ピエロのような恰好をした者、動物に見立てた派手な仮装をした者もいて、どこかに一人くらい人間でない者が交じっていても気付かないのではないかと思うほど浮世離れした空気があった。
「――皆さん、今日は俺のためにお集まりいただき、ありがとうございます」
 マイクを通して跡部の声が聞こえる。ホール中の視線が一点に集まった。一段高いところに立つ跡部は燕尾服を着ていたが、仮面はつけていなかった。
「ご案内した通り、今年のパーティーは仮面舞踏会をテーマとすることにしました。お忙しい中、趣向を凝らした衣装をご用意いただきまして感謝します。こうして会場を見渡しただけで、パーティーの大部分は成功したように感じています」
 会場全体を大きく眺めて、跡部が満足そうに言う。
「ですが、ここで二つほど、今日一日を更に楽しむためのルールを設けようと思います」
 風に揺れる稲穂のようにざわめきが広がった。
「どんなー?!」
 誰かが大声で言った。氷帝の芥川だ。くすくすと笑い声が上がる。跡部は声がしたほうにウインクを投げた。
「一つ。会場内では名前や身分を名乗ったり、または尋ねたりする行為を禁じます。ビジネスでお付き合いのある方も多数お越しいただいている中、大変恐縮ではありますが、どうぞ名刺は内ポケットやバッグの中にお収めください」
 一部の大人たちはそれを聞いて肩を竦めた。口元は笑っているので、仕方ないという意味なのだろう。
「二つ。俺もこの後、仮装をして皆さんの中に紛れようと思います。あなたの横に立っている人、これからダンスを踊る相手が、実は俺かも知れません。そこで、このパーティーに相応しい特別な挨拶を考えました。今夜だけは、どなたも『初めまして』や『こんばんは』といった挨拶の代わりに『ハッピーバースデー』とお声がけください」
 あちこちから「ハッピーバースデー!」と声が上がる。跡部はくすぐったそうに笑ってから話を続けた。
「最後に、我儘をお聞きいただきありがとうございます。本日はアノニマスな時間を存分にお楽しみください」
 大きな拍手に一礼すると、跡部は会場を後にした。直後、会場内に音楽が流れだした。人の塊も三々五々に動き出す。その中に、ひときわ目立つ仮装をした三人組の姿があった。
「あいつ、本当ああいうスピーチ上手いよな」
「マジマジ超かっこよかったー!」
「慣れてんだろーけど、俺には絶対無理だわ。って、んん?」
 鷲のような大きな赤い羽根を背中につけた少年が、手塚のほうを向く。
「そこにいるの、ひょっとして手塚か?」
「それはルール違反にならないのか、向日」
「んげ、細けえな」
 向日は真っ赤な仮面の下の顔を歪めた。
「ほんとだ。手塚~、ハッピーバースデー!」
 羊かヤギの角をかたどったものを頭から生やしているのは、間違いなく芥川だろう。
「そういや、お前ももうすぐ誕生日だったよな。ハッピーバースデー。跡部にしちゃ、まともな服を用意したみたいだな」
 そう言う宍戸の群青色の仮面は、鼻の部分が犬のように尖っている。
「お前たちは随分個性的な出で立ちだな。それも跡部が?」
「いんや、俺たちは自前。こういうの作るの、ジローの得意だからさ」
 向日が芥川のほうを指差しながら言う。
「跡部が誰だか分かんないような仮装してこいって言うから、張り切って作ったんだー! あとで見せに行こうね!」
 宍戸が嫌そうに「えー」と言う。
「絶対一瞬でバレるだろ。そして鼻で笑うだろ、あいつ」
「でも、ちゃんとお祝いしたいCー!」
 芥川がジタバタと足を踏み鳴らしながら言う。
「ところで、跡部がどんな仮装をするか聞いているか?」
 手塚が尋ねると、三人は顔を見合わせた。
「いんや? でも、すぐ分かるだろ。跡部だし」
 向日があっけらかんとして言う。
「そうだな、跡部だし。あ、噂をすればアレじゃねえか?」
 宍戸がいくつかある会場の出入り口の一つを指差した。シルクハットを被った燕尾服の少年が、ちょうどドアを通り抜けて入ってきたところだった。その後ろを、同じく燕尾服を着た二メートル近くありそうな大男がついて歩いている。
「後ろの、ぜってえ樺地じゃん」と向日。
「だな。俺らにしてみりゃ、あれじゃ旗立てて歩いてるようなもんだぜ」と宍戸が頷く。
「まあ、マジで分かんないようにする気はないんじゃね? なんてったって、今日の主役なわけだし」
 向日の言葉を聞きながら、手塚も目を凝らしてみたが、いまいち視界がぼやけて分からなかった。
「俺ら声かけてくるけど、一緒に来るか?」
「いや……、俺は後でいい」
 宍戸の誘いを断り、手塚は三人と別れた。理由とするには曖昧だが、なんとなく腑に落ちなかったのだ。先日や先ほどの挨拶でもあそこまで言った跡部が、そう簡単に自分と分かるような真似をするだろうか。

  

 それから暫くして、手塚が拍子抜けするほどあっけなく、跡部は目の前に現れた。特徴的な泣きぼくろが金色の仮面で隠れても、ブロンドの髪をオールバックにしてシルクハットに隠しても、仮面の下の端正な相貌は隠せないようだった。
「ハッピーバースデー、色男。見立て通り、よく似合うぜ」
「ハッピーバースデー」
 手塚が今日だけの挨拶を返すと、跡部は唇の端を釣り上げて笑った。
「一曲踊ろうぜ」
 跡部はそう言って、手塚の手を取った。
 ホールのあちこちで、同性同士であったり、性別すら不明な仮装相手に踊っている人を見かけるので、今日はまさに何でもありなのだろう。以前、気まぐれに跡部が教えてくれたステップを思い出しながら踊る。ターンのたびに燕尾服のテールが軽やかに舞い上がった。
 目の前にいるのは間違いなく跡部で、何も可笑しなところなどないはずだ。なのに、この強烈な違和感は何だ。
「跡部……、少し痩せたか?」
「アーン? 抱き心地が違うって? 気色悪ぃこと言うなよ」
 仮面の下から青い瞳が手塚をねめつける。よく見知ったはずの、しかし、見たことのない感情を乗せた瞳。
「……跡部ではないな。何者だ?」
 手塚は声を潜めて問いかけた。一瞬の無表情の後、跡部の顔をした男は声を殺して笑い始めた。手塚の肩口にそっと顔を寄せて呟く。
「ったく、たった二つのルールを守れねえとはな。無粋な男ぜよ」
「仁王か?」
 手塚は驚いて身を引こうとしたが、仁王は手塚の肩に置いた手に力を入れて引き留めると、ダンスを続けながら小声で話し始めた。
「あの王様、ペテン師をスケープゴートにしよった。可哀そうに、お陰で俺は延々とハッピーバースデーを浴び続けちょる」
 おどけた口調で仁王が言う。声色は跡部というのが、何とも形容しがたい。
「樺地君はカモフラージュだったわけだな」
「ノンノン。樺地は挨拶に来たのが誰か、こっそり教える係じゃき。さすがに、そこまで予習は出来んからのう。今頃、本物の王様は、大衆に紛れて自由を謳歌しとるはずぜよ」
 会場を横目で見ながら、気だるそうに仁王が言う。
「どうしてお前がそこまで……?」
 手塚の訝しげな表情を見て、仁王は悪巧みをしているときの跡部そっくりに笑った。
「これだけの人数を騙す機会は、そうそうないじゃろ? 種明かしの時間が楽しみナリ。もちろん、王様から褒美を貰う約束もしちょる。安心せい」
 仁王は手塚の胸を軽く突き飛ばして言った。
「俺様にそれ以上の下心はねえよ。分かったら、とっとと本物を探しに行きな」
 跡部の声、跡部の口調で、仁王が言う。後ろに立っていた樺地と目が合って、無言で会釈された。
 ふと、待っているのだと思った。跡部は、他の誰でもなく、手塚が自分を見つけるのを待っているのだと。
 樺地に向かって頷くと、今一度、広い会場をぐるりと見渡した。仮面姿の人々が和やかに、そして陽気にハッピーバースデーを贈り合っている。
「主役を探すパーティーか……、とんでもない誕生日会だな」
 手塚は小さく呟くと、これという当てもなくホールの中を歩き始めた。

  

 一人でいる手塚を気に掛けてか、それとも単に社交好きの集まりだからなのか、行く先々で見知らぬ人々が「ハッピーバースデー」と話し掛けてくる。手塚としても、どこに跡部が紛れているか分からない以上、適当な言い訳をして交わすわけにもいかない。手塚の話し方はいつもと変わらず、決して愛想のいいものではなかったが、それで気を悪くするような人はいなかった。皆、この非日常感に浮かれているようだった。
 もしかしたら、これが跡部の狙いなのかも知れない。手塚一人がこういった場所に来れば、壁の花になるだろうことは容易に想像できる。手塚はそれで一向に構わないのだが、それを構うのがあの男なのだ。誰かを一人きりにするのが嫌いで、自分の誕生日なのに参加するすべての人を楽しませようとする、生粋のエンターテイナー。
「分かったから、早く祝わせろ」
 手塚は気を取り直すように頭を振ると、再び人の波に目を向けた。

  

 その後、何人か知った顔を見かけて話してみたが、誰もがシルクハットの男を跡部と思い込んでいるようだった。(手塚はあえて肯定も否定もしなかった。)
 もう何周会場を回っただろう。ゲストは元より、給仕や楽師なんかに紛れてはいないかと目を配ってみたが、跡部らしき人影はさっぱり見当たらなかった。ここまで来ると、いっそここにはいないのではないかという気がしてくる。手塚は会場の隅に移動して、いったん休憩することにした。
 ノンアルコールのスパークリングワインを飲んでいると、すぐ目の前を見知った男が通りがかった。氷帝の忍足だ。いつもの丸眼鏡がないと随分印象が違うが、後ろで一つに結んだ髪や背格好から判別がついた。一緒に歩いているのは、たしか跡部が親しくしていると言っていた滝だ。それから、二人に挟まれるように歩く、すらりとした黒髪の少女。
 足先まで隠れる白いロングドレスは、首の周りを一周して後ろで一度大きな結び目を作り、余りを下に垂らしている。リボンと一緒に、肩から肘の辺りにかけて緩く広がった袖が、歩みに合わせて優雅に靡く。
 親しげに顔を寄せ合い、談笑しながら歩く三人を、特に真ん中の少女を、誰もが一度は振り返った。銀細工のように繊細な仮面で顔が半分隠れていても、まるで冬の妖精もかくやという鋭利な美しさがあったのだ。
 手塚の前を通り過ぎざま、少女がふとこちらを向いた。目が合った瞬間、手塚は危うくグラスを落としかけた。結い上げたグレイがかった黒い髪、その髪と同じ色の瞳をしていても、見間違いようがなかった。手塚の唖然とした表情を見て、少女は真紅の唇に鮮烈な笑みを浮かべてみせた。
 手塚はテーブルにグラスを戻すと、ひと呼吸置いてから言った。
「ハッピーバースデー」
 三人が足を止めて振り返る。
「なんや、誰かと思うたわ。ハッピーバースデー」
 飄々と忍足が言う。少女は二人の腕に手を添えて、ただ静かにほほ笑んでいる。数秒あって、滝が少女に耳打ちするように言った。
「残念。どうもバレちゃってるみたいだよ」
 途端、少女はがっかりだとでも言いたげに唇をへの字に曲げて頷いた。実際、目の前で見ても到底信じられないが、この視線を間違えるわけがないとも思った。
「ハッピーバースデー」
 手塚は今度は白いドレスの少女だけを見つめて言った。それが合言葉だったかのように、少女は二人の腕を解いて手塚の目の前にやってきた。
「Happy Birthday to you, too」
 流暢にそう答えると、少女は小首を傾げながら右手を差し出した。その態度は控えめというよりは、どこか有無を言わさぬ圧力があった。
 手塚は苦笑して、薄い手袋をはめたその手を取った。

  

「なんで分かった?」
 踊り始めて近距離で話せるようになってから、ようやく跡部が口を開いた。この見た目をして跡部の声で話すのだから、仁王のときと同じくらい頭が混乱しそうだ。
「あの二人のお陰だ。お前一人で歩いていたら、多分視界にも入っていなかった」
「どおりで。遠目に何度か見かけたけど、全然こっち見ねえと思った」
「仮装と言っても、まさか女装するとは思わないだろう」
「先入観は目を曇らせるってことだな」
 跡部は目を弓なりにして笑った。見慣れない黒い瞳。
「なんだか落ち着かないな……」
「あーん? ちったあ楽しもうと思わねえのかよ、俺様の美少女っぷりを」
「自分で言うか」
 とんだ自信家だ。手塚は思わず笑ってしまった。実際、何も知らない人が見れば美少女以外の何者でもないのだが。
「楽しむって、どういう風に?」
「そうだな……、例えばこういうのとか?」
 そう言うと、跡部はステップの合間に少し伸び上がり、手塚の頬に唇を寄せた。頬にくっきり着いた赤いリップマークを見て、満足げに頷く。
「初めてにしちゃ上出来だな」
「おい、誤解されたらどうする」
 手塚は眉根を寄せて、見知った人影はないか周りに目を配った。
「誰に? 何を?」
 首を傾げながら、跡部は歌うように言った。いつもより上向きに広がって見える睫毛が、パチパチと音を立てるように瞬く。
「……それもそうか。俺はどこかの美少女からキスをもらった、幸運な誰かなわけだしな」
「ハッ、分かってきたじゃねえの」
 跡部は声を抑えて笑った。シャンデリアの明かりが乱反射して、辺り一面に光を投げている。さざめくような笑い声、シャンパンの泡が弾けて立ち上る匂い、バイオリンのピチカート。世界中のきらきらしたものを集めても勝てない二つの瞳。
「どうだった? 偶にはこんなパーティーも悪くないだろ?」
「偶にはな。今日だけで、俺まで十年分くらい祝われた気がする」
「来年は二十年分を目指そうか?」
 跡部が言うと、本当になりそうで怖いところがあるが、今はそれでもいい気がした。
「いいものだな、祝うのも祝われるのも。いい誕生日だ」
「ホスト冥利に尽きるぜ。あーあ、終わらせたくねえな」
「なら、もう少し踊っていようか」
 十二時の鐘が鳴るまでとは言わないが、せっかくなら魔法が解けるまで。音楽が流れる間、ハッピーバースデーの雨に打たれて。

  
  
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