サンフラワー
手塚が巨大なひまわりを担いで家にやってきた。
「どうしたんだ、それ」
跡部は目を丸くして訊ねた。手塚を部屋まで案内してきたメイドは、笑いを堪え切れていない。
手塚は自分の顔ほどもあるひまわりを肩から下ろしつつ、「来る途中でもらった」と答えた。
「うちにこんな大きい花を生けられるような花瓶もないし、良かったらもらってくれ」
「貰いものを人にやっていいのかよ。花瓶が要るならやるぜ?」
「いや、結構だ」
跡部は釈然としないまま花を受け取ると、そのままメイドに渡して、適当な花瓶を見繕ってくるように告げた。
「で、誰にもらったんだよ」
「さあ。知らない人だ」
手塚は汗で肌に貼りつくシャツの襟元を掴んでパタパタと風を送っていたが、跡部がまったく納得していないのに気づいて手を止めた。
「ここに来る途中、道沿いに大きなひまわりを植えている家があって。立ち止まって眺めていたら、家の人が『今度の台風で折れるかも知れないから』と言って、切ってくれたんだ」
「ああ、このへん直撃しそうだもんな……。って、どんだけ物欲しそうな顔で見てたんだよ」
「そんなつもりはなかったんだが」
本当に思い当たる節がないらしく、手塚は首を捻っている。
「じゃあ、よっぽど好きそうに見えたんだろうな。大事に育てた花だろ? そうそう赤の他人に渡したりしないと思うぜ」
少しして、特大の花瓶に生けられたひまわりと冷えたお茶が部屋に届いた。跡部はさっそく花瓶をキャビネットの上に飾って、花の向きを整えた。
「立派なもんだな。本当に要らねえのか?」
「置き場に困る」
「まあ、それはそうだな」
自分の部屋に置いてそこそこ存在感があるくらいなので、手塚の部屋であれば確かに少々圧迫感があるかも知れない、と跡部は脳裏に描けるくらいには馴染みのある手塚の自室を思い出しながら相槌を打った。
「少しお前に似ているな、と思って見ていたんだ」
お茶を飲みつつ、手塚はさらりとそんなことを言った。跡部はひまわりの花を一瞥した後、訝しげな視線を手塚に向けた。
「どこが……?」
「具体的に、と言われると難しいな。インパクトか……?」
「そうか……。氷帝の太陽と謳われる俺様も、まさかひまわりに例えられるとは思ってもみなかったぜ……」
「別に例えたわけではないが。というか、その二つ名みたいなものは恥ずかしくないのか?」
跡部は手塚の問いかけをまるっと無視してしばらくひまわりの花を眺めていたが、ふと何か思いついたような顔をして振り返った。
「そうだ。今度、ひまわり畑見に行こうぜ。すげえ綺麗な場所があるんだ。海沿いの丘の上に、見渡す限りひまわりが咲いてんの」
名案だとばかりにニカッと笑う。手塚は跡部とそのすぐ後ろに咲く黄色い花を見て、やはりどこか似ているなと思いながら、軽い気持ちで「ああ」と返事をした。数日後、台風一過の快晴の空の上を、一路東欧へ向かうことになるとは想像もせずに。